「ロッド・レーバー・アリーナ」と「ハイセンス・アリーナ」「マーガレット・コート・アリーナ」という3つの屋根付きスタジアムを備えるオーストラリアンオープンの会場は、4つのグランドスラム大会の中でもっとも近代的な設備を誇る大会です。この大会の特色は「FUN」……テニスを総合的に楽しむという姿勢でしょう。
それは最寄り駅「フリンダース・ストリート・ステーション」を降りた瞬間から始まります。会場へは公園の中を歩いていくわけですが、その途中に数々のアトラクションがあり、小さな子供から大人までが楽しめる企画が立ち並びます。来場者は、会場へ到着するまでに盛り上がり、まるでテーマパークへ向かう気分です。
大会運営サイドも、大会使用球のサプライヤーであるダンロップを積極的にアピールしてくれました。会場内には3つのダンロップ・アトラクションポイントがあり、メインとなる「ダンロップブース」は、選手たちが練習をする姿を間近に見ることもできるプラクティスヴィレッジにあります。
ここには、タッチパネルでのゲームアトラクションが設けられ、来場記念として景品をゲットしようと、連日、多くのファンによる行列が絶えませんでした。また、オーストラリアンテニスの黄金期を築いたレジェンド「ロッド・レーバー氏」を招いてのトークショーも、ここで開催されました。
1956年の全米ジュニアテニス選手権優勝から始まった彼の選手生活は23年間に及び、その間に残した実績は、全豪優勝3回、全仏優勝2回、全英優勝4回、全米優勝2回を誇ります。とくに目を見張るのは、全豪・全仏・全英・全米の4グランドスラムを連続して制する「年間グランドスラム」を、1962年・1969年の2度、達成していることです。
初めてのシングルス年間グランドスラムは、アメリカの「ドン・バッジ」が1938年に成し遂げており、女子では映画化もされた「モーリン・コノリー」が1953年に達成。しかし、人生で2度も達成したのはレーバー氏、ただ一人。それ以来、男子では一人の年間グランドスラム達成者も現われていません。
もちろん、オーストラリア代表としてデビスカップでも大活躍し、世界的なテニスレジェンドとして尊敬を集めています。ダンロップブースで開かれた、レーバー氏の話を聴けるという特別な機会を逃すまいと集まった観客はビックリするほど多く、密集の後方にいた観客は「レーバー氏の姿は見えなくても、声だけでも聞きたい」と耳を傾けていました。
そのロッド・レーバー氏は、ダンロップと「テニスギア&テニスボールのアドバイザリー契約」を結んでおり、ダンロップとオーストラリアンオープンとの架け橋となりたいと語っています。そしてダンロップは、オーストラリアンオープンだけでなく、世界各地で行なわれる「ATPツアー」でも大会使用球の使用率 No.1 となっているのです。
オーストラリアンオープン会場での「ダンロップ」は、来場者たちにとって「お楽しみポイント」をいくつも提供しました。注目を集めたのが「インスタ映えスポット」です。いまや人が密集してスマホを構えていると「インスタ映え?」と、つい見てしまうほど、撮影スポットの提供は、人々を楽しませます。
『DUNLOP BALL CAVE』は、まさにそんな妄想の実現です。壁一面に『DUNLOP AO』が埋め込まれ、天井からはまるで鍾乳洞のようにボールのつららが降りてくる。ここでインスタ撮影する観客はとても多く、こうした「非日常」を提供するのも『DUNLOP LOVE THE GAME』の考え方の一つです。
そしてもう一つの「非日常」が、ハイセンス・アリーナの近く、グランドスラムオーバルに設置された『DUNLOP AO Trick Art』です。ドカーンとデカい壁に、『DUNLOP AO』のインパクトを表わしている……んだろうなぁっていう絵が描かれています。みんなこの前で写真を撮っているんですが、遠目に見ていると、何が楽しいのかわかりません。
近付いて観察していると、ようやくわかります。正面から見ると妙にヒシャゲた絵なんですが、スマホ画面を構えたまま右に移動すると、「どうしたことでしょう!」…… ボールが急にラケットから浮き出して完全な立体球に見えるポイントがあります。ここも楽しいインスタスポットでした。
このようにダンロップは、楽しいオーストラリアンオープンを、さらに楽しくさせる演出に取り組んでいます。そのスピリットは、ダンロップを愛用するみなさんはもちろん、すべてのテニスファンにとって「テニスは楽しい!」と感じてもらいたいという願いから。それが『DUNLOP LOVE THE GAME』なのです。
昔から「道具」には凝ってしまうほうで、そのおかげでこんな仕事をしているわけですが、このところ気になってしようがないのが『包丁』。機能としては「切る」だけですが、驚くほどの種類があるんです。大きくは「洋包丁」と「和包丁」とに分けられ、それぞれに「何を切るか?」によって、多種スタイルに分類されています。
プロ用の洋包丁は「シェフナイフ」と呼ばれ、肉など大きなものを切る「牛刀」、肉から骨を外すための「骨スキ」、細かな作業をするための「ペティナイフ」、それにパンを切るための専用ナイフ「パン切包丁」などがありますね。
専用性の高いものには「冷凍包丁」とか「サーモンナイフ」「筋引き」なんてのもあり、それぞれに刃(ブレード)素材の違いや、長さ、ハンドルのスタイルなどで、細かく分かれて、調理の作業によってどれが必要かを選んで使います。
「和包丁」に至ってはあまりに多彩で、並べるのがたいへんです。みなさんご存知の……とはいっても現代の一般家庭ではあまり使われていない「出刃包丁」。それに刺身を切るための「柳刃包丁」。プロの間では「柳刃」は関西のスタイルで、関東では先の尖らない「蛸引包丁」が使われます。魚用としては、他に「ふぐ引」「はも切り」「鰻裂き」「どじょう裂き」なんていう超専門的な包丁があります。
いっぽう、野菜を切るための「菜切り包丁」も、持っている方が少なくなっていますが、名前くらいは聞いたことがあるでしょう。刃先が角型のアレです。菜切り包丁は、片刃が多い和包丁の中では数少ない「諸刃(両刃)」で、和包丁らしく峰幅(刃とは反対側の背部分)が厚くなっていますが、同型でも刃が薄いものは「薄刃」として別扱いされ、こちらは「片刃」です。また同じ野菜用でも、プロの細かい細工切りなどでは、刃先が台形状に尖っている「むき包丁」が使われます。
プロ用でも汎用性の高い包丁はあり、「身卸し出刃」は出刃としても二枚卸しや刻みにも使えますし、洋包丁の牛刀の汎用性を和包丁にアレンジした「和牛刀」なんてのも使われています。昨今の洋包丁は、ほとんどが「ステンレス製」ですけど、和包丁は、錆びなくて一般家庭に使われやすい「ステンレス製」と、放っておくと錆びてしまうために、細めな手入れが必要な「鋼製」とがあります。
おそらくみなさんが知っているのは、ほとんどが「ステンレス製」でしょう。しかも、どんな材料であっても「三徳包丁」1本でこなしちゃってるんじゃないでしょうか(笑)
よくテレビ通販などで「切れ味 抜群!」と宣伝されているステンレス製包丁がありますが、本物の鋼製和包丁の切れ味といったら、驚くほどです。まるで比じゃありません。とくに「青紙スーパー」と呼ばれる頂点の鋼を、割り込み刃に使う包丁は、まさに日本刀の切れ味……いや『斬れ味』です。
こうして包丁にハマってみると、「あれっ、これってラケットと似てるんじゃない?」と思うようになりました。テニスをしない人には、まったく同じようにしか見えないラケットにも、じつに多彩な分類がなされ、フレームの厚さ、素材、形状、重さ、バランス設定、ストリングパターン……と、みんな違ってるじゃありませんか。みなさんには、それぞれの違いを感じ取ることができますよね。
極めつけは「包丁もラケットも、それだけでは使えない」ということです。包丁は「研ぎ」が必要ですし、ラケットには「張り」が必要です。研ぐには「砥石」が必要であり、これも多種多彩、状況に応じて細かく使い分けられます。それなりに安価で使いやすい「人口砥石」があれば、高価だけど精密な研ぎができる「天然砥石」があるところなど、ストリングに「シンセティックストリング」と「ナチュラルガット」があるのと、そっくりじゃありませんか!
しかも!…… 砥石があれば誰でも見事な研ぎができるわけではなく、技術・腕前が必要であり、そのプロフェッショナルもいます。これって、「プロのストリンガー」と同じですよね。「研ぎ職人」も「張り職人」も、道具に精通していて、状況に応じてどんな砥石を選び、どう研いだらいいか? どのストリングを選び、どう張ったらいいか? を熟知していて、適切なアドバイスをすることができるのです。
どんなにいい道具を揃えても、それだけでは、道具は完成されません。それを「使える道具」に仕上げる「職人」の存在が重要なのです。包丁は、料理人が自分で研ぎ、その業とともに料理の腕前に磨きをかけていくことができますが、ラケットの「張り」は、素人にはできません。
今日ではストリンギングマシンが進化し、精密な張りができるようになってきましたが、高価なマシンで張れば、誰でもビシッと張れる……というわけではないのです。
まず、それを知ってください。マジに「斬れる包丁」というのは、自分で切ろうとしなくても、包丁の重さで「切れてしまう」んです。そうした「本物の切れ味」を知ると、自分の包丁がいかに切れないかを実感できます。だからこそ「切れるようにしたい!」と思って、あれこれハマっていくわけです。
よい「張り上がり」を知らないプレーヤーは、ずっと切れない包丁で、素材を潰し切りしているようなものです。それで「切れている」と思っているかもしれませんが、「本当に切れる」というのは、まるで違います。プロの料理が美味しいのは、瀝然とした道具の差があるからなんですね。ただ、いい包丁を使えば、かならずウマいものを作れるというわけではないですけど……(笑汗)
松尾高司氏
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わられています。
また「ダンロップ・スリクソンメンバーズテニス」のサポーターも務めてもらっています。