2020/08/31

ダンロップメンバーズテニスメルマガ 2020 8月号

住友ゴムグループの(株)ダンロップスポーツマーケティングは、テニスボールの概念を進化させる【セント・ジェームス・プレミアム】を2020年9月15日から販売します。最大の特徴は、より快適な打球感の長持ちを実現した「トータル長寿命」です。

ダンロップは新しいボール開発に挑むため、テニスプレーヤーが求めるテニスボールの姿を探るアンケート調査を実施しました。対象としたのは、10代〜40代の男女、411名の方たち。「ボールを買い替えるきっかけは?」という質問に対して、約半数以上の方が「摩耗・汚れ・毛羽立ち」という視覚による判断であることがわかりました。

部活やスクールなどのレッスンで使用されるボールは、すべて同じように見えるため、その変化に気が付きにくいものです。それでも摩耗や汚れが目立つようになるということは、かなり使い込んでいますよね。

次に挙げられたのが「空気の減りを感じたとき」で、約1/4 でした。こちらは打球結果やフィーリングに着目されていて、できるだけ良い環境でプレーしたいという気持ちがあるからと想像できます。

このように、テニスボールには外見でわかる劣化(もちろん性能にも影響しています)と、打球結果からわかる劣化という「二面性」があります。そこで「ボールの品質面で重視しているポイントは?」の質問をしたところ、「空気圧の減り方」をトップに、「打球感」「バウンドの高さ」に意識が向いていることがわかりました。

さらに「普段使用しているボールに求める改善点は?」には、やはり「空気圧の減り方」がトップで、「フェルトの毛羽立ちにくさ」「フェルトの耐久性」という順の回答です。
これらの結果から、みなさんがもっとも重視しているのは『耐久性』だということが明らかになったのです。

ここでちょっと「テニスボールの構造」について話しましょう。テニスボールは、数ある球技に使用されるボールの中で、きわめて特殊なものです。表面はモジャモジャの「フェルト」で覆われ、その下にはゴム製の「コア」と呼ばれるゴムボールが隠れています。さらに、目には見えませんが、コアの中には「1.8~2.0気圧」の気体が封入されていて、風船のような弾力性を生み、これを「内圧」と呼びます。

テニスボールは、ゴムボール自体の弾力性と、その内側から押し返す内圧で反発力によって弾み、フェルトで包むことによって打球感をマイルドにし、弾道とバウンドを安定させているのです。このシステムは、テニスというスポーツにとって完成されたもので、長年受け継がれてきたものです。

ただし、この3つの要素「内圧」「コア」「フェルト」はすべて、繰り返し打たれることによって変化してしまう宿命を背負っています。コアのゴムは、激しい変形の繰り返しによって疲労して弾力が低下します。コアに密封されているといっても、徐々にガスが抜けて内圧は低下します。フェルトは打球によって擦られ、ちぎれ、打感が悪くなって、スピンのかかりも低下し、弾道も安定しなくなります。この3つの要素のバランス変化によって、飛びや打球感は悪くなるなど、いわゆる「ボールの劣化」となるのです。

そんなテニスボールの寿命を延ばそうと、これまで多くの「耐久性アップ」を謳うボールが発売されてきましたが、「飛び寿命」を延ばそうとすれば打球感は硬くなり、フェルトの寿命を延ばそうとすればマイルド感が失われる。つまり「なにかを我慢しなければならない」のが高耐久ボールでした。

しかしダンロップは「3要素それぞれがバランスよく耐久性アップすること」を目標に研究を重ね、ついに辿り着いたのが【St.JAMES PREMIUM】です。性能的には高耐久でありながら、打球感は定評のある【St.JAMES】と変わらず、これまでの高耐久ボールの宿命から、ついに脱却したのです。

そんな画期的な高耐久ボール誕生に貢献したのが、『扁平タルク』です。前述のとおり、コアゴムから中の気体が徐々に抜け出てしまい、しだいに反発性を低下させます。ダンロップはこのガス抜けを抑えるため、タイヤ技術にも使われている「扁平上の特殊構造を持つ柔らかな鉱物」を配合し、それらが規則的に並ぶことでコアゴム層にたくさんの塀を作り、ガスが通り抜けにくくする素材を採用したのです。これはガス抜けを抑制するだけでなく、扁平タルクはゴムとの接着性が高いので、ゴムを補強し、反発性や弾力が長く続くようにする役目も果たします。(特許出願中)

これによってコアボールはガス抜けしにくく、しかもコアボール自体の物性がより長く維持できるようになりました。さらにフェルトには、耐摩耗性が高いフェルトを使用して、見た目的にも、性能的にも、劣化しにくいボールが完成したのです。

ちなみにこのフェルトは「ウーブンフェルト」といって、ウール、ナイロン、コットンの混紡織物を起毛させて作られ、マイルドな打球感を演出してくれるもので、安価な「ニードルフェルト」とは一線を画す、高級なフェルトなのです。これらがすべて整ったことで、【St.JAMES PREMIUM】は、ボールの各機能が総合的に高耐久となり、なおかつ心地よい打球感を保ってくれる『夢のボール』が生まれたわけです。

この違い、使ってみればわかります。店頭で見かけたら、ぜひ1缶購入して、お試しください。

テニスから失われていく「ナチュラル」素材

昔のテニス道具は、多種多彩。素材に関しても、天然素材と人工合成素材がありました。
テニスラケットのフレームには天然素材のウッドが使われ、テニスシューズには天然皮革。そしてストリングには羊や牛の腸を原料として作られるナチュラルガット。

天然素材の良いところは、プレーヤーにとって優しい感覚を与えてくれるところと、環境にも優しいところです。ウッド製のフレームは、打球感がマイルドで、タッチでコントロールするスタイルには「ボールとの親和感」があるといった印象でしょうか。言い換えると「強引なところがない」ような気がして、きっとベテランみなさんの脳裏には、往年の名プレーヤーの姿が、数々浮かぶことでしょう。

これに代わって取り入れられた新素材は、メタル(鉄やアルミ)、グラスファイバー時代を経て、約35年間もカーボンファイバーというFRP(繊維強化プラスティック)時代が続いています。素材的には、物質的疲労が少なく、どんどん硬いものになっていきます。

ウッド製フレームに比べてFRP製は、比較にならないほど反発性が高く、昔は楽しくなるまで上達するのに長い時間がかかったテニスを、初心者でも楽しめるくらい、イージーなスポーツにしてくれました。そして熟練者にとっては、打球スピードが向上することによって、テニスというゲームがとてもスリリングなものになりました。

いいことはもっとあります。ウッド時代の学生テニスでは「ラケットの寿命かぁ……う~ん……1年だな」と言われていて、反発性能が低下したフレームを「腰が抜けた」と表現していました。ですから、同じラケットを何度も買い替えるのが当たり前だったのです。ところがカーボン製のフレームは素材的な劣化が遅くて性能維持性が高く、2〜3年に1度、買い替えるくらいですむのです。

そしてテニスシューズは「天然皮革製が高級品」でした。足へのなじみが良く、耐久性も高かった(当時としては……)。なにより「オレは天然皮革のテニスシューズを履いている」という自信というか、満足感というか、優越感を与えてくれるものでしたね。

それ以前はキャンバス製といって、帆布から発展した布織物のシューズで、伸縮性が低く、汚れやすく、耐久性も低くて、すぐに破れてしまいます。その後に登場した人工皮革は、まだまだ「皮革の代用品」の感が強いものでした。表面はツルツルしていて、すぐにシワが入って汚れが染み込み、摩耗に対しても弱い。天然皮革よりも優れていたことといえば、「軽いこと」と「安いこと」。そんなわけですから、テニスを本格的に競技としてプレーする者は、ほぼ全員が天然皮革を履いていたものです。

ところが1990年代になって、あるトッププロが人工皮革製シューズを履いたことで、人工皮革製シューズの地位がいきなり跳ね上がりました。それを見て多くのプレーヤーが「なんだ、人工皮革でもいいのか」と目からウロコ。たしかに人工皮革の品質が劇的に向上して、風合いも安っぽいものではなくなっていて、見た目も天然皮革に迫っていました。ここで初めて、天然皮革製シューズの価格を人工皮革シューズが上回り、以降、ほぼすべてのテニスシューズが人工皮革製、あるいは現代の合成樹脂製となって、天然皮革は消え去ることとなったわけです。

なぜこんなことが頭に浮かんだかというと、最近、ウィンブルドン伝説の試合というテレビ放映があり、それを見ていて「やっぱり打球音が美しいよなぁ」と感じたからです。それはまさに「ナチュラルガットのおかげ」。ナチュラルガットが放つ音は、じつに美しくエレガントなのです。

その美しさが、ポリエステル系ストリングの擡頭によって奪われました。遠くまで澄み渡るあの音を、プロの試合で聴くことはできなくなりました。ハイブリッドで半分だけナチュラルを使う選手もたくさんいますけど、あの心躍らせる打球音は響いてきません。彼らがナチュラルガットから離れたのは、カーボン製フレームの進化による高反発性能のためです。ナチュラルガットの高反発さが仇となり、打球をコート内に収めるために「飛ばないポリエステル系を選ばざるを得ない」こととなったからです。フレームを「飛ぶようにして」おいて、ストリングで「飛ばないようにしてる」んです。「足しておいて、引いている」……。そのためにプロの世界から、美しい打球音が消えました。

技術の進歩によって得られた恩恵はもちろん多大ですが、「趣(おもむき)」や「優雅さ」が色褪せたのは痛し痒しです。進歩させながらも、愛されるフィーリングを保ち続ける…… 新発売のダンロップボールは、そういうものらしいですよ。

松尾高司氏

松尾高司氏

おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わられています。
また「ダンロップメンバーズメルマガ」のサポーターも務めてもらっています。