「プロが使えるクラブとして、フィーリングが満足のいくレベルにあるか、そして、どんな状況下でもしっかり性能を発揮できるか。それはドライバーからアイアンまで一貫した開発テーマでした」
そう語るのは、『スリクソン ZX Mk II(マークツー)シリーズ』(以下、ZX Mk II)の開発チームの一員である中村 崇だ。スリクソンのアイアンの中で、男子プロの使用率が最も高いハーフキャビティ「7シリーズ」の最新モデル『ZX7 Mk II アイアン』がめざしたのも、打感のさらなるレベルアップだった。
そのために開発陣が注目したのが、ラフからのショットでの打感である。
フェアウェイからのショットの場合、プロは、フェースに入っているスコアラインの下から2本目から5本目あたりでヒットすることが多い。そのため、これまでの7シリーズでは、その付近のバックフェースを厚肉にしていたという。
「ただ、それだと、もっと上の部分で打った時、たとえばラフからだと実際に上部に当たるのですが、押し負ける、あるいはフィーリングがよくないという現象が起こりがちでした。そのため、『ZX7 Mk II アイアン』では、厚肉部分をトップブレード近くまで広げて剛性をしっかり確保することで、押し負けず、ソフトなフィーリングを実現しました」(中村)
プロによるテストでは、実際にラフからも打ってもらった。すると、多くのプロが「なるほど」と、これまでとの打感の違いを感じ取ったという。
「ボールが半分くらい隠れるような状況で、6番とか7番で打ってもらった時に、『押し負けずにしっかり押し込んでいける』『ちゃんと芯で捕らえられている感じがする』と言ってもらえました。それらは新しいバックフェースの効果だと思います」(中村)
厚肉部分を広げることで、打感の向上に加え、どんな状況でも高い性能が発揮できるという、プロがクラブに求めるもうひとつの目標も達成したのだ。
「ZX7 Mk II アイアン」では、他にも形状に変更を加えた部分がある。それについて、商品企画を担当した大倉 侑樹は次のように説明する。
「8番からピッチングウエッジ(PW)の〝顔〟を少しだけ変えています。前作は性能がとても高く評価されたため、新しいモデルのどこを変えるかというのは難しい問題でした。前作のよさを残しつつ、どうやって性能を上げるかというのが一番のポイントでした。そのため、形状の変更も微調整というレベルで行なっています」
高い評価を受けた前作だったが、プロや上級者にヒアリングしてみると、「PWがアイアン形状に近すぎて、ボールをコントロールするイメージが湧きにくい」という声が聞かれた。そこで、PWに加え、8番と9番も、ウエッジに近い丸みを帯びた形状に変えた。
「それによって、フェースでボールを包み込んできちんとコントロールするイメージが出るようになったと思います。それに気づいてくれたのがB.ケプカ選手で『ピッチングがけっこう変わって、いい顔になったね』とすごく褒めてくれました(笑)」(中村)
こうして「ZX7 Mk II アイアン」は、プロが重視する操作性のよさも高レベルで実現している。
中村 崇(なかむら・たかし、写真左)
住友ゴム工業㈱スポーツ事業本部 商品開発部 クラブ技術グループ 課長
2002年入社。タイヤの開発を経て、2005年よりゴルフクラブ開発に従事。スリクソンのアイアンの開発、ゼクシオに関わるスイング解析などを担当したのち、2019年からスリクソンのドライバー、フェアウェイウッドの開発を担当。2022年4月より現職となり、スリクソンのクラブ全体の開発を統括する。
大倉 侑樹(おおくら・ゆうき)
住友ゴム工業㈱スポーツ事業本部 ゴルフビジネス部 ゴルフクラブビジネスグループ 課長代理
2010年入社。物流部でのボール需給や工場の生産管理、販売会社に出向してのボール販売企画、営業を経て、2021年より現職。『スリクソン ZX Mk IIシリーズ』は、自身が商品企画を担当した初のモデルとなる。
スリクソンアイアンの中で、女子プロの使用率が高く、男子プロも長い番手としてチョイスするポケットキャビティの5シリーズ。その最新作『ZX5 Mk II アイアン』を前作と比較したデータを見て気づくのが、驚異的なボール初速の伸びだ。
7番のヒューマンテスト(ドライバーのヘッドスピード43m/秒相当)では、前作にくらべボール初速で+0.6m/sを記録。第1回のドライバー編で説明したが、ドライバーのボール初速が1 m/s上がると、視界から消えていくスピードは明らかに速くなる。それに迫るアップ率をアイアンで記録した「ZX5 Mk II アイアン」の反発性能は非常に高く、飛距離でも4.3ヤードのアップに成功した。
なぜ、これほど大幅なボール初速のアップを実現できたのか。そのカギとなったのがフェースの設計だ。
「フェース裏側のリーディングエッジ寄りに入れていた溝を上下方向に広げて、ひと回り大きくしました。それによってフェース下側のたわみが大きくなり、いわゆる下打ちに対して強くなっています」(中村)
フェース裏下部の溝は前作で採用し、反発性能を高めることに成功した。そのため、開発チームでは溝に関する研究を継続したが、その際に課題となったのは、反発よりも耐久性だったという。スコアラインが入っている部分は、その分フェースが薄くなるためだ。
「溝の部分の肉厚は、何度もシミュレーションをして決めたのですが、耐久性能がシミュレーション通りに出るかと言えばなかなか難しいんです。そのため溝の深さを少しずつ変えてテストをした結果、溝を深くするよりも幅を広げるほうが反発アップには効果があるとわかりました。耐久性を確保しつつ、ギリギリまで薄くできたことが反発アップの一番のポイントです」(中村)
反発性能をアップさせるために改良した点は他にもある。フェースそのものの肉厚分布の変更である。
前作では、ヒール側を厚くし、トゥに近づくにつれて薄くなる肉厚分布を採用した。そうすることで、ボール初速が最大になったからだ。
「ただ、前作は、ピンポイントでは反発性能がかなり高かったものの、反発エリアという点では、けっして広いとは言えませんでした。それを今回、ヒール側を薄く、トゥ側を厚くというように肉厚分布を
前作とは逆にすることで、反発エリアはかなり広がっています」(大倉)
そうした試行錯誤の末に生まれた「ZX5 Mk II アイアン」から放たれるショットは、飛距離が伸びただけでなく、ボールの〝飛び姿〟も前作のそれとは異なるという。
「弾道自体、一段高くなりました。打ち出しが高いというより、頂点の位置が高くなった感じです。高さがちゃんと出た上で、飛距離がアップしました」(大倉)
その高弾道を可能にした理由として、中村はスピン量の増加を挙げる。
「今回、前作よりも重心を少しだけ深くしたのですが、それによってスピンがより入るようになりました。下打ちしてもスピンが入るのは、その重心設計が効いているからです」
グリーンで止まる球を打ちたいのは、プロだけでなくアマチュアも同じ。それを、飛距離アップとともに実現したのが「ZX5 Mk II アイアン」というわけだ。
前作より新たにスリクソンアイアンのラインアップに加わった4シリーズ。その2代目となる『ZX4 Mk II アイアン』は、中空構造は前作を踏襲したものの、フォルムにはかなり大きな変更を加えた。
ユーティリティ編でも触れたが、スリクソンのユーティリティはアイアンと組み合わせても違和感なく使用できる形状に開発されている。その考え方は当然アイアン同士のコンボでも同じだ。
「ただ、前作では、4シリーズだけを独立させて〝とにかくやさしいアイアン〟をめざして設計したために、少しボテッとした印象のフォルムになっていました。そのため、『ZX4 Mk II アイアン』では前作より形状をシャープにしました。大きさも含めて、他の2つのモデルと一つのラインアップになっていると感じる形状にしているのが『ZX Mk IIシリーズ』アイアンの一番の特徴だと思います」(大倉)
「今回は、5シリーズとのコンボで使うこともできるぐらい『ZX4 Mk II アイアン』はすっきりした顔に作っています。ただし、シャープにはなったものの、やさしさ、寛容性は変わっていません。〝難しくなった〟とは言わせないぞ、という気持ちで開発しました」(中村)
スリクソンらしい精悍なフォルムを実現しながら、前作にひけをとらない寛容性を可能にしたのが、さらなる最適化を進めたフェースの肉厚設計だ。
「まずは前作よりも反発エリアを広げる必要があると考えました。それを実現するために、肉厚を、ヒール側を薄くしてトゥ側を厚くという、5シリーズの開発で得た知見をこちらにも生かしました」(中村)
それに加え、5シリーズと同様にフェース周辺に配した溝との効果により、7番のボール初速は前作にくらべ0.4ヤード向上(ドライバーのヘッドスピード43m/秒相当)。その結果、アマチュアにとって気になる飛距離性能もアップしている。
こうして最強とも言えるラインアップで新登場する「スリクソン ZX Mk IIシリーズ」アイアン。改めてその魅力について二人に聞いた。
「ツアープロからのフィードバックを生かす、ということは、アイアンでも一本筋を通してやりました。プロの要望に応えるために『ZX7 Mk II』のしっかり押せる打感の話をしましたが、『ZX5 Mk II』でも、バッヂの形状を変えて音が響かないように工夫しています。ドライバーもそうですが、プロたちがこれまでになくスムーズに切り替えていることが、『ZX Mk IIシリーズ』アイアンが高く評価されている証しだと思います」(中村)
「スリクソンアイアンへの評価はもともと高かったのですが、今回の『ZX Mk IIシリーズ』は、中村が言うように、実際にプロが打ってみて性能に満足し、納得して使ってもらうことを意識して作られたモデルです。ですから、プロたちが認めてくれた打感のよさや操作性の高さを、アマチュアゴルファーのみなさんにも感じてもらえたらと思います」(大倉)
◆『スリクソン ZX Mk II アイアン』の詳細はこちらをご覧ください。
◆《スリクソン ZX Mk IIシリーズ 誕生STORY① ドライバー編》はこちら。
◆《スリクソン ZX Mk IIシリーズ 誕生STORY② ウッド&ユーティリティ編》はこちら。